都内のマジックバーでは人気のBarでマジック体験。
到着は4時少し前、店長が既に店の掃除をしている。すぐに掃除の手伝い。ゴミ捨てやオーダーの取り方、配膳や灰皿交換、
100種類以上あるカクテルメニューをすぐに覚えて!など無茶な要求。
面接時には丁寧な言葉使いだったのに、今日はアゴで人をこき使う。まあ、ある程度覚悟はしていたが、ここはぐっと我慢我慢。おれはマジックをやりにきているんだし。
今日は月曜日にも関わらず47名の宴会の予約が入っている。席は36名分しかない。倉庫にある椅子を運び出し、ギリギリ席を用意する。既に汗びっしょり。
開店となり予約のお客様が続々入店。大きな声で「いらっしゃいませ!」.コース料理で飲み放題。飲み物のオーダーがガンガン入る。ビールや聞いたことのあるカクテルは問題ないが、聞いたことの無い飲み物は困りもの。「ティーロワイヤル? そんなのねえよ!」と怒鳴られる。後で聞いたらキールロワイヤル。だったらキールロワイヤルでしょ?と言ってくれればいいのに、これは完全なる意地悪だなと思った。
プロマジシャンが2名登場し、あちこちでテーブルマジックを披露し盛り上がる。店長から「先輩のマジックを見るように」と言われて居たので見ていると別の従業員から「ほら、オーダーと灰皿交換だよ」などと怒鳴られる。どっちなんだい!
ステージショーの時間となりBGMが響き渡り、証明も暗くなる。そしてショーの始まり。
鳩が出たり火が出たりと派手なパフォーマンス。思わず見惚れてしまうが、「ショーを見ないでお客様の状況を見ろ!」と
怒鳴られる。
ショーの合間にも飲み物のオーダーが入る。狭い会場を縫うように移動し、灰皿交換や空いたグラスの片付けなど大忙し。
「ショーの時間はウロチョロするな!」とまた怒鳴られる。どっちなのよ!
店長に店の外に呼ばれ
「おまえな、常識で考えれば判るだろ、ショーの時間はオーダーを取るな、客席をうろうろするな。お客さんがショーを見れないだろ」
などと真顔で怒られる。
9時過ぎにようやく団体客が帰った。そしてすぐにテーブルを片付けてセッティング。
月曜の夜というのに、お客さんが結構入ってくる。
カウンターに女性1名、1番テーブルに6名様 2番テーブルに2名様、
3番テーブルに3名様(こちらは常連らしい)、4番テーブルに3名様と大繁盛だ。
お絞りを出して、オーダーを取る。ロイヤルホストで3年、銀座アスターで2年の勤務経験が役に立っている感じだ。
先ほどのマジシャン2名がテーブルマジックを披露。店長から良く見るように言われるが、また別の奴から怒られるのので、マジックを見ながら灰皿やグラスの状況をチェック。飲み放題メニューなのでお酒の量がグラスの半分を切ったら、お替りをお聞きするのがルールだそうだ。
「生2つお願いしマース!」と言ったら、店長が
「ここは居酒屋じゃないから生やめろ、ドラフトと言うように」
そんなことは開店前に言ってくれ!
プロの演じるマジックはすごい。mixiにも書いたが、さすがである。自分のマジックとは雲泥の差を実感。
そのセリフや笑いの取り方、絶妙な間、そして場の盛り上げ方はさすがである。
そしてプロ2名が演じた後、そのテーブルに私が行くことに。
マジックを見るのが初めてという男女混合の6名様、2次会なのであろう、既に酔っ払いで何をやっても受けそうな雰囲気だ。
早速お得意のマジックを15分ほど披露。そして盛り上がった。良かった。今日やっとマジックを演じることが出来た。
店長の指示で次のテーブルでもマジックを披露、そしてその次のテーブルでも演じて盛り上がった。
6時開店してずっとホールスタッフであったが、10時過ぎにしてようやくマジシャンデビューである。
あとで店長に呼び出され、
「先輩マジシャンが盛り上げてくれたから、そのテンションであなたのマジックも盛り上がったんだよ」
「あの6名はマジック見るのが初めてだから、箸が転がっても受けるんだよ」
と厳しい評価。
別の店員からは
「話のテンポが悪いね。もっと笑いを取らなきゃダメだよ」などとダメ出し。
気がつくとカウンターに見覚えのある方が、、、マイミクのかんちゃんだ。お祝いに一人で駆けつけてくれたのだ。
四谷のあやしげなBARで頭ツルツルなオヤジはいかにも怪しい。しかも私のために花束持参である。嬉しい限りである。
持つべきものはマジシャン仲間だ!
しかもプロ2人のうち一人はミクシーをやっているKojiさん。かんちゃんとは既にマイミクらしい。そして3人で盛り上がる。
プロ2人がかんちゃんにマジックを披露。マニアでも驚くマジックの連発だ。そして私もかんちゃんやその隣にいた美人にマジックを披露。大いに盛り上がる。
しかしこの行為が店長及びオーナーの逆鱗に触れることに。。。
すぐに店長に外に呼び出された。店長怒り心頭!
店長「おい、誰がカウンターの客にマジックをやれと言った? こちらが許可するまではやるなと言ったよな」
私「はい、すみません でもお客様からの要望だったので」
店長「ダメだ。こっちからの指示で動け、それにあの女性は俺の女なんだ。すげー不愉快なんだよ」
なあんだ、ただの嫉妬ね。こいつはガキだな(店長39歳) まあまともに相手にしてもしょうがないと思い、ハイハイと返事しておいた。
続いてオーナーが登場。
「ここは居酒屋じゃないから、複数のお客様を混ぜちゃダメだよ。おまえの友達は一人客。だったらその友達のためだけにマジックを演じろ。となりの女性があいつ(店長)の女かどうかは別として、その女性がマジックを見たいといっても、一緒にしないでくれ。特に男女のお客様を一緒にして盛り上げてしまうと、その後に男女がトラブルになる可能性がある(店を出た後、男が女にしつこく付きまとう例があったらしい)。
それにカウンターでマジックを見せる場合はカウンター越しに立って対面で演じるように」
とかなり長時間に渡り店の外で(雨が降る中)説教が続いた。
説教が終わりズブヌレの状態でかんちゃんの前に再び登場したが、既にマジックを演じるテンションではない。かんちゃんの薦めで数枚写真を撮ったが、もう、早く帰りたかった。
かんちゃんはトランプを出してその美人(店長の女)にマジックを見せ始めた。美人も盛り上がっている。店長の顔は引きつっていて俺を睨みつける。もう、俺の居場所はない。本当に辛い時間であった。
11時を過ぎるとお客も減り始め2名だけ。かんちゃんも大酔っ払いでお帰り。ようやく静かなバーとなる。
気がつけばずーっと立ちっぱなし。飯はおろか水も一適も飲んでない。それでも休憩時間はない。お客が2人だけでもホールに立ってなければいけない。不思議と睡魔は襲ってこないが、「暇なときはメニューでも覚えろよ!」などと怒鳴られる。気を抜く時間もなく、トイレも一回も行ってない、全部汗で出てしまった感じだ。
終電の時間が終了となり、お客はゼロとなった。
ようやく休憩かと思いきや、店長や他の従業員は自分で勝手にカクテルを作って飲んでいる。
何を言われるか怖いので「座っても良いですか?」なんて聞けない。
「おい、おれにもマジックを見せてくれよ」と店長が偉そうだ。
こんなテンションで楽しくマジックが演じられるわけが無い。
他の従業員も含めていくつか披露したが、全く盛り上がらない。
さっきまで怒鳴っていた奴ら相手にマジックをするなんてお金貰っても演じたくないものだ。
「それで終わり?」
「インパクトねえなあ」
「ここはこうじゃないの? さっきのプロはこうしてたよ」
などと言いたい放題。
奴らはマジックは素人だが、プロのマジックは見慣れているので厳しい見方をする。
それにこっちにも手順というものがある。無駄なことはしていない。
そこの作業を抜かしたら、ダメなんだよ!と言いたいところをグッと堪える。
約1時間に渡り、私のマジックの批判オンパレード。
いい加減テーブルひっくり返して帰ろうと思ったが、終電が終わっているので我慢我慢。。。。
2時過ぎに常連の女性がカウンターに。お水商売の帰りのようだ。
店長らと盛り上がる。マジシャンは私しかいないので、彼女にマジックを披露。
さっきだめ出しを食らったマジックを披露し大いに盛り上がる。
(盛り上がったじゃないか!ざまあみろ!)
マジックを見慣れている定連さんなのに「すごいじゃーん!」などとお褒めの言葉をいただき、今日一番の嬉しい出来事であった。
続いてカップルが入店。ラブホテル帰りといったところであろう。こちらも初めてのお客様で、先ほどのダメだしマジックを披露。
大いに盛り上がり、拍手喝采であった。(本当にざまーみろ!)
さらにはモノマネまで披露し、とっても盛り上がった。
(この時間が一番楽しかったな)
気がつけば時間は4時半、お客様が帰ったと同時に閉店。
閉店後は反省会と称して、再び私の今日一日の行動を振り返り、再び説教。
こちらは披露困憊で言い返す気力は無い。それより早く帰りたい。
反省会は6時まで続いた。いつもは8時ぐらいまでミーティングをやっているようだ。
閉店後3時間も店長のウサ晴らし説教は聞きたくも無い。
実に13時時間以上立ちっぱなしの勤務。これは正直言って体が持たない。
マジックを演じる部分だけは問題ないが、この長時間労働に加えて人間的に全く魅力を感じない店長他の従業員にアゴで使われ、マジックにケチを付けられるのは真っ平ゴメンである。
たしかにプロの演技を見て、勉強になることはたくさんあった。これは自分も勉強しなくてはならない。
しかし同時に、このBARに居る必要性は全く感じなかった。
肉体的、精神的にボロボロ状態で帰宅。時間は朝7時過ぎ。女房と子供が朝食の時間だ。
息子は昨日から小学校内にある子供ルーム(保育園のような場所)で終日過ごすことにな
っている。友達も居ない初めての環境でかなり不安であったが、お友達も出来たようで
新しい環境にも慣れたようだ。娘もこの4月で6年生だ。
子供たちのためにもこんなことで挫けていてはいけないのだが、このままでは体が先に壊れそうである。
靴を脱ぐと左足の親指と右足の小指が真っ赤に腫れている。そしてとっても痛い。ビッコ引きながら風呂に入り、飯も食わずに床に入る。
眠いのに、神経が高ぶっていて眠れない。店長などに言われた言葉を思い出し、くやしくて涙が出そうになる。逆に花束持参で応援しに来てくれた友人の心に感謝で一杯だ。
込み上げてくるものがどっちのものかわからない。浅い眠りの中で、昨夜の出来事が走馬灯のようにプレイバックされる。そして自分の中で結論が出たのは昼過ぎのことであった。